怒りっぽくない人にこそ、アンガーマネジメントが必要です。noと言えない人の我慢の正体
普段は穏やかなのに、あることをきっかけに他人が変わったように怒る。 その豹変ぶりを見た周りは、ドン引き…
その悩みは、真面目に役割を果たしてきた人ほど抱えるものです。
断言します。我慢も、怒りの良くない出し方の一つです。
私自身、まさにそんな人間でした。我慢した挙句、ある日突然爆発する。 アンガーマネジメントを学んで、感情を仕組みで扱えるようになり、今は企業や行政機関に研修を届けています。
この記事でお渡しするのは、noと言えない理由と、明日から使える伝え方です。上にも下にも挟まれている管理職の方に向けて書きました。
怒りっぽい人だけのものではない、アンガーマネジメントの本当の対象
怒りっぽい人こそ、アンガーマネジメントをするべきではないか。そう思われがちです。
たしかに、その見方は間違いではありません。
大きな声で怒鳴る人や、物にあたって壊してしまう人には、とても有効です。論外ですが、暴力に及んでしまう人にも、同じことが言えます。
これらは、他人や物への攻撃性として、良くない怒り方の代表例です。
ただ、対象はそれだけではないんですよね。
怒鳴らない人にも、怒りを表に出さない穏やかな人にも、同じくらい必要なものなのです。
怒りを出さない人は、怒りがない人ではありません。飲み込んでいる人です。
一見して穏やかで我慢強い人ほど、怒りをためこみやすい面があります。
職場では波風を立てないように振る舞い、家でも相手を優先する。そんな日々を送る人は、周りから「温厚な人」と見られます。
その評価に応えようとするほど、本音は奥へ押し込まれていくでしょう。
そして押し込まれた怒りは、消えるわけではありません。どこかで必ず形を変えて出てきます。
怒りの出し方には「他人・物・自分」の3つの向きがある
アンガーマネジメントでは、怒りの出し方を、向かう先で3つに整理するのが基本です。
- 他人に向かう怒り:殴る、蹴る、怒鳴る、責める、無視する、嫌味を言う
- 物に向かう怒り:机を叩く、ドアを乱暴に閉める、物を投げる
- 自分に向かう怒り:言わずに飲み込む、我慢する、自分を責める
前の2つは、周りから見てもわかりやすい怒り方といえます。
目立つぶん、本人も気づきやすいのが特徴。
ところが3つ目は、外からなかなか見えません。
それどころか、周りから「できた人」「人格者」と評価されることさえあります。
だから本人も、悪い出し方をしているとは気づかないまま続けてしまうのです。
暴れる怒りも、飲み込む怒りも、出し方が違うだけの同じ怒り。
この3つ目こそ、今日いちばんお伝えしたい見えない怒り方です。
向きが違うだけで、どれも怒りの扱いに困った結果だと言えます。
言わずに我慢することが、時間とお金と生き方を削る理由
では、言わずに我慢することの何が問題なのでしょうか。
私が我慢すれば、この場はうまく収まる。そう考えて飲み込む人は、多いはずです。
たしかに、その場は収まる。
けれど、我慢の代金は、自分が払い続けることになります。
- 断れずに引き受けた仕事で、自分の時間が減っていく
- 本来は負担しなくてよい場面で、お金や労力を出してしまう
- 本当にやりたいことに向ける気力が、残らなくなる
一つひとつは、小さな我慢です。
それでも積み重なると、大事な生き方そのものが後回しになっていきます。
家族との時間、自分の健康、将来のための学び。それらが静かに削られていくのです。
だからこそ、言わずに我慢することも、アンガーマネジメントでは悪い表出方法に数えます。
場を守るために、自分を差し出し続けてはいませんか。
なぜ私たちは「noと言えない」のか。空気を読む教育が残したもの
言えない自分を責めないでください。
noと言えないのは、意志の弱さではありません。
私たちは長い間、こう教えられてきました。「空気を読みなさい」「和を乱してはいけません」と。
学校でも、職場でも、周りに合わせられる人が評価されてきました。
反対に、自分の意見をはっきり言う人は、「わがままだ」と見られることもあったはずです。
その結果、自分の気持ちより場の空気を優先する癖が、体に染みついたのだと私は考えています。
これは個人の問題というより、教育の弊害だと言えるでしょう。
空気を読む力は、強みです。しかし、自分を消すために使うと、苦しくなります。
だからこそ、必要なのは我慢する力を増やすことではありません。
- 自分の気持ちに気づくこと
- 相手を尊重しながら、言葉にすること
この2つを、練習で身につけていくのです。
言い方さえ知っていれば、noは相手を傷つける言葉ではなくなります。
我慢が積もると、部下への爆発になる
ここで、冒頭の悩みに話を戻しましょう。
上司には言えない。取引先には気を遣う。
会議では、波風を立てないように黙る。
そうして一日中飲み込んだ怒りは、心のなかにたまっていきます。
そこへ、部下のミスや報告の遅れが重なった場面を想像してください。
普段なら流せる出来事です。ところが、その一言で堰が切れることがあります。
怒鳴った後で、部下のミス自体より、ずっと強い言葉を出した自分に驚く。そんな経験をした方もいるのではないでしょうか。
部下に怒鳴ってしまう理由は、部下だけにあるとは限りません。
流れを整理すると、次の3段階です。
- 上や外に言えず、怒りを飲み込む
- 飲み込んだ分が、心のなかにたまっていく
- 立場が下の相手に、まとめて出てしまう
我慢と爆発は、同じ根っこから生えています。
だから、爆発を止めたいなら、その手前にある我慢の段階に手を打つのが近道です。
さわやかな自己表現「アサーション」とは何か
では、どうすればよいのでしょうか。
答えはシンプルです。怒りを飲み込まず、攻撃もせず、適切に表現する。
アンガーマネジメントでは、そのためにアサーションコミュニケーションも取り入れています。
アサーションは、さわやかな自己表現とも呼ばれるものです。
自分の考えや気持ちを、相手を尊重しながら率直に伝える方法を指します。
伝え方は、大きく3つのタイプに整理できる。
- 攻撃的な伝え方:相手を責めて、自分の主張を通す
- 受け身な伝え方:言いたいことを飲み込んで、相手に合わせる
- アサーティブな伝え方:相手を尊重しつつ、自分の考えも伝える
noと言えない人は、受け身に寄りやすいものです。
そして限界を超えたとき、攻撃的な伝え方に振れてしまいます。
受け身と攻撃は、同じ場所を行き来しているだけなんですよね。
アサーションは、その真ん中を選ぶ技術です。
表現や自己主張が苦手な人にとって、とても有効な方法だと言えます。
アサーションは、生まれ持った性格ではなく、練習で身につく技術です。
上司に「できません」を伝える、アサーションの言い方
ここからは、明日から使える言い方をお渡しします。
まず、上司に断る場面です。
追加の依頼に、反射的に「わかりました」と答えていないでしょうか。
その一言が、自分の時間を削る入口になっていることがあります。
アサーションの基本は、次の3ステップです。
- 事実と状況を伝える
- できない理由と、代わりにできることを示す
- 相手の立場への配慮を添える
たとえば、次のように言い換えます。
今週はA案件の締切が重なっており、この依頼を受けると両方の品質が下がりかねません。優先順位をご判断いただければ、今日中に調整します。
ポイントは、断るのではなく、判断材料を渡すことです。
上司は、あなたの状況を知らないだけかもしれません。
事実を示せば、上司も判断しやすくなります。
もう一つのコツは、いつも、どうせ、といった決めつけの言葉を避けることです。
感情的な言葉を外すだけで、同じ内容でも受け取られ方が変わります。
断る場面では、次の2つも意識すると伝わりやすくなるでしょう。
- 結論を先に、短く伝える
- 理由は一つ二つに絞って、言い訳は口にしない
部下に厳しいことを伝える、アサーションの言い方
次は、立場が逆の場面を見ていきましょう。
部下のミスが続くと、飲み込んでいた怒りが出やすくなるものです。
そこで、怒りを出す前に、事実と気持ちと要望を分けて伝えます。
- 事実:提出が、期限から2日遅れています
- 気持ち:進捗が見えず、私は不安になりました
- 要望:遅れそうなときは、前日までに一言ください
たとえば、次のような形です。
提出が2日遅れて、進捗が見えず不安になりました。遅れそうなときは、前日までに一言ください。
責める言葉は、一つも入っていません。
伝えるタイミングは、感情が落ち着いてからで十分です。深呼吸をして6秒ほど待つだけでも、言葉の強さは変わります。
それでも、伝えたいことはそのまま届くのです。
怒りの奥には、「こうしてほしい」という願いが隠れています。
その願いを言葉にするのが、アサーションです。
怒りは消すものではなく、伝わる形に整えるもの。
怒鳴らずに伝えられた経験は、部下との関係だけでなく、自分への信頼も育ててくれます。
まとめ
ここまでの要点を、あらためて整理しておきましょう。
- 怒りの出し方には、他人・物・自分の3つの向きがある
- 言わずに我慢することも、怒りの悪い表出方法の一つ
- noと言えないのは、空気を読む教育で身についた癖
- 飲み込んだ怒りは、立場の下の相手への爆発になりやすい
- アサーションは、練習で身につくさわやかな自己表現
怒りっぽい人だけでなく、我慢強い人にこそアンガーマネジメントが必要です。
そして、言えなかった自分を責める必要はありません。
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